昨日、土曜午後から4時間の長い講義研修を受けてきました。
なんだかんだと毎年この手の研修を受けている気がします。認知症だの生活習慣病だの、と。
しかし昨日の土曜は蒸し暑かった。風が全然吹かないし、湿度と気温はすごいし。名古屋駅付近の会議室での受講でしたが名古屋駅周辺はこんな蒸し暑さでも土曜午後だからか結構人通りは多くて、なかには野外居酒屋のようなところでひしめき合うようにして飲み会しているグループもいて、遠くから見るだけでも、ぞっとするほど暑苦しいんだが、本人らは冷たい飲み物飲むから気分いいんかなと思いつつ、会場付近を歩きました。
さて今回も何かしら新しい知識が得られたわけですが、復習になった点や、ポイントとして紹介したい知識などを、ちょっと箇条書きにしてみます。
認知症の患者さんを家族が在宅介護する場合、その限界はというと、失禁、入浴拒否、着衣失行、といった3主徴がみられるようになったころ、とのことで、大体長谷川式スケールでいうと30点満点中10点がこのあたりだと。
しかし、とはいえ特養ホームでも月12万円の費用がかかる、グループホームだとそれよりは少し安いけれど、10万円くらいはするだろうから、本人の年金受給額により、施設入所可否が決まる面もある、と。
ドネぺジル(商品名アリセプトなど)の副作用で一番特徴的な3つ、頻尿、易怒症(頻度5割)、除脈による失神
認知症は今後ますます症例数は増えるが、それは高齢者が増えるからであり、その高齢者の中での発症率はどうかというと、今後は減っていくだろう。それの根拠は3つ。学歴が上がっていること、高血圧のコントロールが広まったこと、糖尿病の発見と治療コントロールが広まったこと。学歴は、昔の高齢者というと尋常小学校どまりだったが、いまの高齢者は高卒が多い。単純に学歴が上がるということは、結果的に認知症になりにくいことにつながっている。高血圧の放置は正常状態の人と比較して3倍認知症になりやすい。糖尿病も同様に2倍認知症になりやすい。多くは高血圧と糖尿病とは合併しているため、その放置により認知症発症リスクは相乗的となる。
運転免許証の返納、断念についての時期としては、実践的には、長谷川式スケールでいうと20点あたりが分水嶺となる。20点以下になるようなら返納の時期。
デイサービスがコロナ禍でサービス中止となった結果、社会的孤立状態を発し、認知症の悪化となったことは事実としてある。
認知症の薬は基本的に4種類。ドネぺジル、メマンチン、リバスチグミン、ガランタミン。
80歳ごろからはフレイル(脆弱性)に注意を。フレイルは認知症だけでなく、生命の危機となる。フレイルの予防には、筋トレ、肉魚などタンパク質を積極的に摂る、そして人と会うこと。
認知症の治療薬としてメマンチンは本来中等度以上の症例に使い始めることになっているが、実践的にはむしろ最初のうちに使用し、そのうちドネぺジルを追加併用とするほうが良い。
抗認知症薬をフルドーズ(通常量)使いなさい、と厚労省は指導しているが、副作用の兼ね合いと実際の効果とを鑑みるに、実地臨床としてはフルドーズで処方しないほうが良い場合が多い。
認知症の薬をいつまで服用すべきかについては、目安として、長谷川式で10点以下になったとき。ただし、メマンチンはBPSD(随伴症状。問題行動)に有効なので統合失調症薬を使うより安全に有効。
BPSDに有効な薬としては、グラマリール、デパケン、メマンチン、抑肝散(この漢方は幻覚症状の是正にも有用)
アパシー(無動症状)や嚥下障害が認知症の終末期ではあるが、この症状に対してシンメトレル(パーキンソン症候群の薬)が有効なことがある。
認知症の原因としては一番多いのがアルツハイマー型で大体60から70%を占める。二位が脳血管型かレビー小体型。アルツハイマーと血管型とは重複していることもある。前頭側頭葉型だけは抗認知症薬は無効。
認知症と鑑別を要する疾患の一つに高齢者のてんかんがある。高齢者のてんかん発症率は1%。
長谷川式テストは3か月おきとか定期的に実施すべき。それにより症状の推移を把握する。
90歳代の認知機能障害はもはやアルツハイマーとは違う病態のことがほとんど。
介護者による虐待を見つけたら医師は地域包括センターへ通報する義務がある。
長谷川式テストのうち、一つだけで認知症の程度をだいたい把握するとしたら、野菜の名前をどれだけすらすら言えるかを試すといい。13種類以上すらすら言えればOK。7種類未満だと認知症の可能性が高い。その中間はいわゆる軽度認知機能障害(MCI:mild cognitive impairment)。
エーザイから新しい認知症の予防薬が今年の秋ごろに発売となる予定。レカネマブ注。これは脳のアミロイド沈着の除去効果があるのだと。ただし非常に高額であり、かつ2週間おきに2時間もの時間をかけて点滴投与する必要があり、脳出血の副作用が1%ながらある。保険収載されるだろうが、最初は各県に1施設だけという限定的にのみ供給されることになるだろう。
抗認知症薬を処方するなら免許証の返納は必須であると考える専門医も少なくないが、それは早期発見早期治療の原則に矛盾している。かつ、それを服用しつつ免許保持する(運転もする)こととは法的には本来は矛盾しないのだが、教科書的教義に則るならば臨床的矛盾を容認するしかなくなる。ただし免許は長谷川式で20点以下になったならどのみち返納するべきなので、運転しつつ、服薬する時期というのはそんなに長い年月ではない。
近年の高齢者の運転ミスによる事故報道のおかげで、自主返納に積極的になる家族や本人も増えてきた。
運転試験場で認知症かもと指摘されたケースで実は多いのが、難聴が原因だったという点。日本は補聴器が世界一普及しているのに世界一常用しない国だとのこと。むしろ小型の拡声器を使用するほうが良いかもしれない。
以上、ちょっとメモ書きを列挙するだけでもこれだけの豆知識があるわけです。今後の診療に生かしていきたいと思います。
私の場合、70人が入居している特別養護老人ホームをかれこれ15年ほど、一人で嘱託医を担当し、関わっています。毎週1,2回の往診をずっと続けています。老年医学、認知症の臨床もこれだけやれば、そこそこの経験値だと自負しています。今後、さらに入所者さんのためになるような、ちょっと生きがいをもてるようなことをしていきたいと考え始めています。ただ身体的なケア管理をするだけでなしに。
思えば当院は、というか、私は、開業以来、赤ちゃんからお年寄りまで、内科的なことから外科的なことまで幅広くずっと対応しつづけています。もちろんまだまだ未熟者であり、日々研鑽しなければなりませんが、これだけ幅広く長くいろいろやっていると、さすがに症例数は勤務医を続けた場合と比較しおそらくは2ケタほど、いえそれ以上かも知れません、それほども違う経験値となっています。そうすると、どうも人間というものは、見ていると、その人の全体像というのが比較的分かるようになってきました。もちろんまだまだ大した能力レベルでもないんですけども、少なくとも開業医だからこそ得られる力というのか、スタンスというのか、経験値というものがそういうものを培ったように思うこのごろです。しかし、だからこそ、やはり機会ごとに日々勉強しなければならないんですね、、。それは、医学以外の書籍などの勉強も重要であることを含めてです。
目に見えないものに本質は宿るというのかな、そういうのを洞察することが今後ますますレベルアップしていけば、人間社会でこの仕事をするには非常にいいんじゃないかなと、今さらながら思ったりしています。それは世渡りとかそういうことではなくてですね。実際私には、いわゆる世俗的な社交性(政治家や有名人のような)はありません。外交的人間ではありませんから。そもそも、、医者でparty peopleに類する性格というのは、あまりいないんじゃないかと思います。医師とは思慮するのが仕事のスタンスの要ですからね。