「患者よがんと戦うな」などの著書で有名な放射線科医の近藤誠さんが73歳で虚血性心疾患で死去されたと報道がありました。
日本の男性の平均寿命が80歳という現代において、73歳というのは早いですね。
報道によれば、この人は健診を受けないポリシーだとのこと。医師でありながら、がんや生活習慣病の発見や治療をしないという生き方だったわけです。
この人の生き方を考えるに、医師の役割ってなんだろうかと思います。
たとえば総理大臣の職にありながら、国民の安全を確保しなかったり、国民の健康寿命を短くする政策をとったりする政治家がもし仮にいたとしたら、それはどうなんだろうか。そういう例えで考えたら、この近藤誠さんの言動は、医師としての自己否定に他ならないのではないかと、そう断定して差支えないのではないかと思います。
私のブログで常々書いているように、健診というものは70歳を過ぎてからが本当に重要性を増してくるんです。
「70まで生きれたからもう健診などはせず自然に病気になり自然に放置すればいい」というのは、良い捉え方をすれば勇気のある人だし、強い人だと思いますが、病気になる前にそういうことを語っていた人でも、実際に病気が判明するやいなや初めて後悔して、いきなり健康を意識した生活習慣にいまさら是正したり、ちょっとした体調変化におびえたりする事例を幾人もみてきた私からすれば、人間というものは、実際にはそこまで強い人は居ないのが現実というものです。
寒苦鳥という架空の鳥についての法話があります。この鳥は冬の寒い時期になると「夏のうちにいろいろと寒さ対策をしておけば良かった。寒いしエサもない」と嘆くのだけど、また春夏になるとその苦しさを忘れてしまい同じ後悔を繰り返すのです。いってみればイソップのアリとキリギリスのようなものですね。
どんな屈強な人間でも病気や不幸には弱いものです。そして、この近藤誠さんは、心筋梗塞を起こすことも事前に分かっていたうえで放置していたのなら大したもんだし、さりとて決してほめられた行為ではないけれども、個人の自由な生き方、いってみればセルフネグレクト死といってしまえば本望なんだろうと思いますが、医師でありながら放射線科医という専門の彼は、おそらく生活習慣病というものもあまりご存じなかったのではないかという可能性も否定できない気がします。
医師であり強烈なインフルエンサーであったこのアイドルドクターは、その言動により多くの病気の人々をミスリーディングしてきたことでしょうから、私は死者にムチ打つようなコメントを個人的なブログの場といえども残さざるを得ないと考えます。
拡大廓清手術や抗がん剤治療を徹底的にやるという、がんをやっつけることだけを是とする一辺倒の癌治療が極端でよろしくないということは、すでに現代では近藤誠さんがあれこれいう以前に判明しているのが最新のがん治療です。もう十分エビデンスがでているのです。個人個人の患者に応じたオーダーメイド治療はすでに確立しているのです。ネグレクトであれ、闘うばかりであれ、いずれも極端はいけないのだ、ということが真理なのであって、まるですべてのがん治療や予防医療が悪であるなどと誤解をあたえるプロパガンダを繰り返した罪は軽くないと私は思います。
医者の看板を持っている以上、それは心得ておかなければならなかったということです。
結果として彼は73歳という若さで、しかも生活習慣病による死亡ですから、普通に治療したり生活改善したりすればまだまだ何年も生きられたことでしょう。にもかかわらずその年齢で死去したということは、何を意味するか。
私としてはこれ以上新たな彼の新書が出されなくなることに期待しています。悩めるがん患者を地獄行きの迷路にいざなう啓蒙活動はこれで終わりにしてもらいたいからです。自殺する自由もある世の中ですから、中途半端な医者作家にいちいち教わらなくとも、治療や検査を拒否する思想の人は端っから病院には関わらないものです。彼のやっていたことは一種の宗教活動ですから、思想的後継者が出てくる可能性は少なくないとは思いますけれども、、。
逆に、医者は医者で、患者に自分の価値観を押し付けすぎないようにするという謙虚さももたねばならない、というのも時代として正しいわけで、近藤誠さんは本当はそういうことを言いたかったのかもしれませんが、論調が極端だからとてもそうは思えませんでしたね、、。
73歳で突然死する、ということ、しかもそれが放射線科医という、実地臨床とは離れた立場の専門とはいえ、とりあえずは医師であったということ、その結果がいろいろなことを物語っていると思います。