花粉症に自費のステロイド注射をするクリニックがあることについて警鐘を鳴らす記事を書いた小児科専門医の先生があるようです。記事はおそらく数日で消えてしまうことでしょうから、この際私見を述べたいと思います。
花粉症、つまりアレルギー鼻炎、結膜炎、皮膚症状といったもろもろの症状に対しては通常、抗ヒスタミン剤内服や局所点鼻点眼治療で対応するのが第一選択となりますが、ステロイド忌避派の医者というのは、それでも治らない患者に対しても、絶体にステロイドは使わないポリシー、だと思われます。
今回私が目にした記事では、自費診療でステロイドの注射をする(つまり保険適応がない治療)院所や、その治療に安易に臨む患者に対して警鐘を鳴らしていると捉えました。これは良い捉え方をした場合です。
しかしこの記事は、捉え方によっては、ステロイドの副作用を必要以上に強調しているようにも思えてしまいます。
抗ヒスタミン剤でもステロイドでも、また、この記事を書いた小児科医が推奨する分子標的剤の注射でも、薬というのは大なり小なり副作用があります。どの薬だから安心だとかはケースバイケースなので、特定の薬について、これは安全だとかこれは危険だとか、安易に一般化して論じないほうが良いと思います。
あくまでも選択肢の順位づけがあって論じられるべきであって、ステロイドすべて悪、という論調には閉口させられます。
ことに、小児科は日常臨床において、ほとんどステロイド注射を使用することがない科目でしょう。難病や特殊な症例を除いて、日常臨床でステロイド注射を使うことは基本的にないです。しかし、だからといって、成人にもステロイド注射は禁忌というミスリーディングをする記事を公表することは、正直いって、あまりよろしくないと思います。
難病や特殊症例の代表である自己免疫疾患とか、悪性リンパ腫や白血病の治療とか、比較的多量にステロイド投与する治療は小児科領域でもあるわけですが、それはどう言い訳するつもりでしょうか。それこそ成人がワンシーズンに1回注射ステロイドを少量投与することとは比較にならないリスクだと思います。それでも疾患によっては大量投与せざるをえないし、それにより利益を得られるのはエビデンスとして確立しています。むしろ、この先生が推奨されていた分子標的剤による注射治療のほうが、まだ今後どういうリスクがあるのか不明な新薬治療であるので、そちらを安全だと推奨することにはまだ問題があります。
成人の花粉症の治療の話に戻ると、そもそも小児科だけを診ている医者が、成人の治療についてさほど経験がないのに横やりを入れることは、いくら小児科では専門医だとしてもそれはお門違いです。花粉症には個人差があって、通常の治療ではコントロールが難しいとか、通院する暇がないとか、いろいろな事情症例が世の中にはあります。かくいう私がそうです。今年は花粉症がひどいんです。通常の治療ではギブアップしたわけです。それで、ちゃんと保険適応のある注射ステロイド剤を投与したのです。それで楽になりました。そしてこの治療は頻繁にやるようなものではなく、効果があればそれで終わりで良いんです。実際、その後効果は持続しています。なんら支障となる副作用もありません。もちろん、第一選択に推奨するわけではありませんよ。しかし、症状というのは通り一遍全員均一ではなくて、個人差がある、ということは医者なら誰でも理解してしかるべきでしょう。一律に特定の薬を断じるのはそれこそ言語道断です。
ステロイド忌避派の医者にはこういうのがいるんです。ことにアトピー皮膚炎に関しては、ステロイド外用剤という標準的治療にも断固反対する医者がいます。本人は正義感をもっているつもりなんでしょうけれど、それならEBMは無視するんでしょうかね、ガイドラインは?過去の長い歴史において、ステロイドも時と場合によって適切に使用するべきであることは、どの分野科目でも確立された科学根拠です。
今回の記事を書いた医者が、アトピー皮膚炎のステロイド外用剤使用をも否定する考えの主であるとはさすがに思いませんが、医者によっては、小児科医師の中にこういう間違った考えに固執するのが相変わらず居るから、そしてそういう考えをもともと持っている親がいるから、医者や親によるミスリーディングで虐待に等しい扱い、つまり、適切な治療を受けさせないという意味での虐待をガマンさせられる子供が相も変わらずなくならないんだということに、一種の宗教ですな、どうにも分からないんでしょう。
安易に保険適応の無いようなステロイド治療を施すことは当然ながら推奨しませんが、ステロイドの極端な悪用によってのみ発生する副作用を、ことさら少量かつ一時的な治療や保険適応治療やEBMに則った使い方をしている場合にも副作用が怖いんだということを強調する論文を世間にまき散らすのはやめて頂きたいと思う次第です。それが小児科ならばなおさらです。間違ったステロイド忌避信仰は、虐待症例を発生させるだけです。アトピー性皮膚炎の標準治療であるステロイド外用剤を完全否定する医者は言語道断です。