院長BLOG

2023.11.11更新

昨夜は名古屋市内で慢性腎臓病の勉強会に参加しました。

10年前とかに比し透析に移行する患者さんは少しずつ減少している日本ですが、それは何故かというと、高血圧や糖尿病、脂質異常についての啓蒙により、それなりに合併症予防医療が広まって、動脈硬化の進行が抑えられているからと思います。ただ、減っているといえども毎年5%ほどずつだという程度だということですし、女性は改善傾向だが男性は改善傾向はあまり見られないということです。

会社の健診で異常を指摘され病院受診を指示されてもなかなか受診しないとか、最初だけ受診しても以後継続できない、というのは圧倒的に男性に多いのは日常臨床でも明らかに感じることです。

昨今の比較的新しい薬で、糖尿病の治療薬であるGLP1作動薬やSGLT2阻害剤は、有意に腎臓病の進行を抑えることが分かっています。もちろん、糖尿病だけが腎臓に悪さするわけではなく、高血圧の放置や脂質異常の放置による血管の破たんも当然これに関与します。

高血圧の放置といえば、最近有名人ロック歌手が立て続けに脳や大動脈の血管破たん疾患で死去していますが、これは端的にいって、高血圧の放置やコントロール不良が原因だと推察されますが、プライバシーの保護の観点からもあるのでしょうか、そういう啓蒙につなげようという報道は皆無です。

大声で歌うとかしゃべる仕事をする職業の場合には、たいてい高血圧のリスクがありますので、そこも啓蒙してもらいたいものだと思います。

さて、本来糖尿病の薬であるGLP1作動薬やSGLT2阻害剤がなぜ腎機能に良い影響を与えるのか、ということについては実は明確には分かっていません。というか、糖尿病でもない患者さんにこれらの薬を投与してもなお、腎臓病が改善するという理由がまだ分かっていない、というほうがより具体的かもしれません。つまり、ただ単に血糖値を下げることだけが腎臓病の治療になるのでもない、ということなのです。そして、糖尿でもない患者にこれらの薬が腎臓保護に効くという理由は分かっていない。ただ、昨夜の講演で推察されていたのは、糸球体へ負担をかける大量の血流を、過剰な状態から適正な状態に整える作用があるからなのではないか、と言われていました。ちょっと難しい話ですね。

こういう比較的あたらしい薬によりかなりの恩恵にあやかれる時代になったとはいえ、演者の先生曰く、まだまだ3分の2か4分の3の患者さんにおいては課題が残る、というのです。そしてそれに対する現時点での解答は、「もっともっと早期の時点から治療介入していくことしかない」というものです。

こうなると、課題である男性の腎臓保護のテーマは、やはり難しいのかなあと、思わざるを得ません。ことに40歳代から60歳代までの一番働き盛りで、かつ、治療介入が一番重要な世代が、どれだけ予防医療に積極的に自覚して取り組むのかなあ、という懐疑です。

演者の先生いわく、「こういうことを、単に公衆衛生的な他人事として見るのではなく、自分だったらどうやって社会生活が普通に送れるような健康的で長生きができるかということを考える必要があり、それをどう啓蒙していくかが重要である」と結論づけていました。国家的プロジェクトの代表世話人をされているこの先生ですら、結局は個人個人の自覚である、とおっしゃられているように思いました。

生きるも死ぬもその人その人の自由である、というのは現代のカオスな風潮として感じるものですが、そういう多様性も尊重しながら、なおかつ、国民全体の健康を考える、というのは、なんだか矛盾するような感じもしますけども、それがリアルな臨床現場というのも(ずっと前から)実感しています。

投稿者: 三本木クリニック

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