院長BLOG

2023.05.18更新

5月17日は世界高血圧デーとのことで、昨夜は名古屋まで出向いて、高血圧のセミナーを受けてきました。

高血圧の話なんて、いまさら聞き飽きたような錯覚に皆さん陥っていないでしょうか?

私もまあ、こういう研究会は何かしら必ず新しい知識が得られるとは思いながらも、今回これほど大変いろいろと面白いというか興味深い話がたくさん聞けるとは思わなかった。それほどにいろいろと新しい知見がありました。

そもそも、人間が高血圧になるのは何故か。

そういった話から始まって、という。

で、その答えには脊椎動物の歴史にまでさかのぼるわけです。

魚類は海や川の水中に住んでいるため、心臓から全身に血液をめぐらせるための強いポンプ力は必要なく、それはどういうことかというと、人間でもプールや風呂に入ると静水圧作用といって、言ってみれば全身の血行が良くなりますよね、バランス良く。魚類は常に水中にいますから、一心房一心室で血圧は20程度だというのです。しかし周辺は海水ですから、体内に塩が侵入してしまうのを防ぐ機構が必要で、それには心房ナトリウム利尿ペプチドという物質がナトリウムと水を体外へ排出させるように作用し恒常性維持をしています。

両生類や爬虫類は血圧が50程度。二心房一心室で、かつ心房同士はシャント、つまり短絡路があるため、血圧が高くなってしまうと肺高血圧を起こし、肺がつぶれてしまうため、血圧はせいぜいその程度までしか上げられません。よって、はいつくばってしか生きられない。立ち上がったら脳貧血を起こしてしまうから。

哺乳類とくに人間は二足歩行しますので、重力に逆らって全身に循環させるための血圧が必要です。本来は血圧は必要な生き物なのです。が、現代人ことにアジア人では塩分の取りすぎや、現代人ではアジア人だけでなく飽食の時代となり、肥満にもよって、必要以上に血圧が高くなってしまっており、つまり病的高血圧となっているのです。

高血圧は、心不全の一番の原因です。いまは大学生や高校生といった若者ですら1割程度に高血圧の子がいるそうです。

過剰摂取した塩を体外に排泄するには、薬物治療としては利尿剤によりナトリウムと一緒に水分を排泄させることが一番直接的です。ただ、従来ある利尿剤の多くは、尿酸を上昇させてしまったり、腎臓に負担をかけてしまったり、電解質のバランスを崩してしまったり、ある程度の副作用が懸念されます。

ナトリウム利尿ペプチドは、そういった懸念がない利尿剤です。なにせ、本来人間の体内で作られている物質ですから。

この利尿剤ホルモンペプチドを、分解代謝してしまう酵素の働きを抑制する薬剤は、結果的に相対的にこの物質を増やすことになります。いま、高血圧治療で注目され推奨度がアップしているのが今回の研究会で紹介されていた薬の、一成分です。商品名はエンレストで、この薬剤については過去のブログでもかなり何度も紹介しているので、いまさらなことではあるのですが、最初に記したように、やはり何かと新知見もありました。

魚類の話に戻ると、ウナギは海水と淡水と、いずれでも生きる魚です。鮭もそうか。こういう魚はこのナトリウム利尿ペプチドの分泌を上げ下げして、体内恒常性を上手に維持しています。

ちなみに、この物質を発見したのは日本人の寒川先生という方です。また、心不全ではこの物質が上昇していることを臨床的に発見したのも日本人の医師です。

利尿作用、血管拡張作用、レニンアルドステロンを下げる、交感神経系のカテコラミン分泌を減らす、といった、血圧を下げる作用にいろいろ働いているのです。

レニンアルドステロン系を抑制することで血圧を下げる作用のあるARBという系列の降圧剤は、カルシウム拮抗剤と双璧をなす、日本ではメジャーな薬ですが、実はこのARB系の薬は、塩の摂取量が多い人の場合には、降圧作用が弱くなり、心臓や腎臓への高血圧による悪影響を防ぎきれない欠点があります。それを食塩感受性といいます。

塩分の摂りすぎは、腎臓から余分な塩を排泄させるのに昼間だけでは追いつかず、結果、夜間に排泄させようと腎臓は健気な努力をします。しかしそのためには腎血流を上げる必要があり、つまり心腎関連により、腎臓のオファーに応じる形で心臓が夜中も早朝も頑張って血圧を上げてしまうのです。しかしそれは体は休まらないし、当然、心臓や脳といった重要臓器への危険性も増えます。

また、夜間に利尿が促されるため、夜寝てから何度も排尿に起きなければならないといったことになり、睡眠の質が落ちて悪循環となります。

夜間頻尿の原因のひとつに、実は塩分の摂り過ぎというのがあるわけですね。単純に水分制限や、前立腺や過活動膀胱の薬を投与すれば解決するというケースばかりでもなく、そういう薬物治療に抵抗する場合には、減塩を心掛けること、肥満是正することが、実は一番効果的だったということさえあろうというものです。

現代人が一番寿命を短くするリスクは高血圧の放置ということがすでに判明しています。大昔では寿命を決定するのはケガや感染症、戦争といったものだったのですが、現代は高血圧なのです。そして糖尿病や脂質異常症がそこに追加で絡んできます。

血圧のコントロールが悪い、もしくは高血圧を放置している人は、このブログを読んだならば、自ら率先して、生活習慣の是正と薬剤治療の開始や強化を進めていただきたいと思います。

一部の患者さんでは、薬をなるべく減らしたい、という気持ちから、本来ならちょうどいいコントロール状態なのでこのままの治療で良いのに、「ちょうどいいなら薬減らせんかね」と希望されます。費用を払うのは患者さんだし、薬を減らしたい気持ちも分からないではないですが、これまで述べたように、高血圧というのは、正常に維持することが一番ですので、せっかく副作用もなく正常範囲に維持されているのならば、それを維持しつづけることが本当は必要重要なのだと思います。

 

投稿者: 三本木クリニック

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