院長BLOG

2022.05.23更新

先週末土曜日には東名古屋医師会臨床懇話会に参加しました。

藤田医大腎臓内科教授の坪井先生による講演です。腎性貧血治療の新たな選択肢HIF-PH阻害薬、という演題でした。ほんの1時間少々の講演だったのですがかなり新しいインパクトがある内容でした。

腎性貧血とは、腎臓の機能が低下してくると、腎臓から分泌されるホルモンであるエリスロポエチンが低下することで、赤血球の産生量が減る、というのが一番分かりやすい説明だったのですが、だった、という過去形で記すのは、それは今回の講演では厳密には正しくないことが分かったからです。

透析期、つまり腎機能が完全に荒廃してしまった場合にはさすがにエリスロポエチンは産生できませんので、それを補充する必要があるし、それの枯渇による貧血は当然でてくるのですが、透析に至るまえの保存期腎不全では体内のエリスロポエチン濃度は正常かむしろ高値となっている、というのですね。だけどもそれにいまいち反応できない、というのが実際のようです。

それで、実は日本ではエリスロポエチン製剤が保険診療で安く提供できるため、米国などよりは簡単に導入できることもあって、これまでに、エリスロポエチン投与により腎性貧血患者の生命予後を改善するかどうかの臨床試験をいくつか行われたのですが、意外なことに、かえって逆効果だったのです。それはどういうことかというと、エリスロポエチンを投与するまえに、鉄分を十分投与してからでないと本来の目的である生命予後の改善が得られないということなのです。鉄には血管の石灰化を防ぐ効果があるそうで、なおかつ、それだけでなく鉄を十分以上投与して体内に保っておかないと、エリスロポエチンのむしろ欠点が露呈してしまうというんです。

鉄分が十分体内にあるかどうかは血液検査で判定できますが、私のいままでの知識では、貯蔵鉄フェリチンが50以上あればとりあえず良い、50以上になったら鉄欠乏性貧血の治療はいったん終了して良い、というものだったのですが、こと腎性貧血にからむ鉄欠乏の場合には、フェリチン300くらいまでは投与して良い、むしろ投与すべき、というようなことのようです。これは正常値の上限よりも多いほどの値です。

米国ではエリスロポエチン製剤が高額なためなかなか使えないので、とにかく鉄分で限界までなんとかしようという現状があるそうですが、それが期せずして良かったと。米国ではフェリチン値500とか異常高値にまで投与することはザラだそうです。日本の場合でいうと、ガイドラインでは300までにしましょう、と設定されていますが、とにかくそれくらいに十分に補充しておいてから、エリスロポエチンは非常に有効にいい意味で作用する、ということです。実際のデータで検証したところによると、フェリチン150以下かつTSAT(トランスフェリン飽和度)30以上、というのが一番予後良好だったそうです。

ところで、腎性貧血でもそうかもしれませんが、老人医療を長年みていますと、鉄分がフェリチンでいうとかなり高値まで補充しているもしくは補充してなくても勝手に高値なのにもかかわらず貧血、という事例がかなりあります。

鉄利用障害というのですが、こういう場合には教科書的にはどこかに悪性腫瘍があるとか、慢性的な炎症がどこかにあるとか、そういうことを考慮すべきなのですが、そういうのもとくにない場合にも実際には鉄利用障害による貧血はあります。そこで、亜鉛やらカルニチンやら投与することもあるのですが、それでもイマイチ、ということも少なくない。今回新しい知見として、HIF-PH阻害剤という、いってみれば、ヒマラヤなどの山岳地高地に行って滞在するのと同じような効果をもたらす薬が、鉄の利用障害(鉄の囲い込み)現象を解除するのだということを初めて知りました。

この囲い込みを解除する作用はエリスロポエチン製剤には無い作用で、いろいろな意味で有用というわけです。もちろんこの薬剤を使用する前にも、鉄を十分補充しておくことが必要で、さもないと血栓の副作用が生じやすいそうです。まあ鉄利用障害でフェリチンが高値の場合にはさすがに鉄補充はそれほど必要ではないかと思いますが、腎性貧血に使用する場合にはとにかく鉄補充をまずやっておくべき、ということが、いろいろな方向から証明されているようです。

ちなみに、鉄分の内服では悪心や便通異常などの副作用がある患者さんもあって、その場合やむなく注射で投与することは普通にあるのですが、本当ならば内服で補うほうが鉄の毒性を考慮するうえでは良いそうです。制吐剤などと併用することで対応できるかと思います。

今回こういう比較的新しい薬で、私もいままで知らなかった薬を、さっそく適応のあてはまる患者さん(多くは老人)に投与して予後改善に寄与させたいと思います。

 

投稿者: 三本木クリニック

  • まずはお気軽に
    当院へご相談ください
    内科/小児科/肛門科/外科/形成外科/皮膚科/美容
  • common_tel.png