院長BLOG

2022.05.11更新

人間は急激な変化というものに弱いものだと思います。

そしてそれは生命力が衰える高齢者になればなるほどにコンサバになっていくことで顕著になります。それは良くも悪くもです。

高齢者でなくとも現役世代であっても、コロナで自粛を余儀なくされたころ、それまで通っていた学校や会社に急に行くことを禁じられて、自殺やうつ病の発症が増えました。

そこから2年ほど経ち、そろそろ自粛ムードも解除へ向かおうかというこの時期になって、また自殺やうつが増えたということはどういうことか。

普通に考えれば、それまでずっと我慢を強いられてきたわけだから、それが解放されたとなれば、喜んで行動範囲を広げるのが自然にできると思いがちでしょうが、実際には、長いこと心の委縮を余儀なくされて、それに慣れてしまった生命力の縮小状態から、急に大きな仕事、忙しい業務(コロナ以前のレベル)に戻れと言われても、もはやすぐには対応できない、ということではないかと思います。慣性の法則、ホメオスターシスです。

気鬱に打ち勝つに手っ取り早いのは、怒りの感情を発生させることですが、生真面目で小心なタイプの人の場合、体外的に怒りを表出するようなことは生来できないでしょう。怒りを表出できることはまだ生命力があるということなので、まだマシなのだろうとは思いますが、ときとして他者を巻き込む暴走行為犯罪行為に走る危険性はありますので、それも程度問題ではあります。

うつに対する薬物治療は、実際にはさほど難しくないと個人的には思うのですが、薬物治療を施す背景として、医療者の、患者を見つめる愛の姿勢が必須です。ただ単に薬を与えれば良い、という単純な生き物ではないのが人間です。

そういうベースのスタンスを持ちながら、さりとて薬物療法がどうしても必要なことはごく普通に日常茶飯事です。その場合の考え方を述べたいと思います。

昨今では、ベンゾジアゼピン系の薬剤は麻薬と同じであるという欧米の考えにより、日本でもいわゆる安定剤を排除する方向で進んでいます。ただ、国民性や国ごとの環境などいろいろ異なるために、拙速に欧米と足並みをそろえることが一概に最善とは言えないように、実際には思います。

もっとも危険な時期にあっては、単に抗鬱剤と非ベンゾジアゼピン系の眠剤を投与しておけば良い、ということでは決してなく、ましてや、本来うつ病なのに自律神経失調症などと安易に軽い診断をしてしまうことは最悪の結果を招きかねません。

私は以前にも、うつ病の薬物治療薬のとらえ方についてブログで記したことがありますが、脳内神経物質として、ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、セロトニン、エンドルフィンなどの、脳の生命力維持に必要な神経分泌ホルモンが枯渇してしまうのが、いわゆるうつ病ですので、それが浪費されないように、そして枯渇しないようにする投薬が必要です。

いわゆる抗鬱剤の一般的なものでは、セロトニンなどが代謝されて減ってしまうのをブロックする作用により、枯渇しないように、つまり出口にフタをする作用を発揮します。代謝を遅らせる作用なのでリサイクル作用ともいえます。

しかし抗鬱剤だけでは急性期の劇的な消耗消費を補うことができない場合も普通にあると思います。そういう場合、やはり神経の浪費、無駄に悩んで消耗してしまうことで神経物質を浪費することを減らす、つまり、どんどん浪費される蛇口を締める作用として、抗不安剤を用いることは理にかなっていると考えます。抗不安剤は、不安を抑えるという意味もあるのは文字通りですが、実際には無駄に考えすぎて浪費してしまう脳の神経物質を、無駄遣いさせない効果があります。生命力が弱っている状態なのに、要らぬ考えばかりシャカシャカ脳内を駆け巡らせることは有害無益であり、その速度を適度に抑えることは重要な意味があります。抗不安薬のほとんどはベンゾジアゼピン系となりますが、その中でも、変に作用時間の短いものや、臨床的に依存性の強いものは避けた方が良いという注意点はあるかと思いますが、上手に使えば少量で十分有効な結果を得ます。少量でも有効なのは抗鬱剤でも同様です。添付文書どおりにどんどん増量する必要は外来診療レベルではあまり感じたことはありません。むしろ副作用のリスクが高まるデメリットが気になります。作用時間の短いものが良くない理由は、それこそ人間はホメオスターシス慣性に生きる生物なので、血糖や血圧にせよ、感情に関する神経物質にせよ、アップダウンの激しいものは逆効果なのです。麻薬というのは一般的にそういう特徴を持つものが多く、ゆえに依存性につながりやすいというわけです。

ともあれ、浪費スピードを遅らせ、なおかつリサイクル効果で代謝消失速度を遅らせるという、両方の治療を併用することで、急激な環境変化でパニックに陥ってしまう精神状態からの悲劇を防止することができます。優秀な精神科医はそういうことを理解して、また、季節変動や患者本人の環境変化などをきちんと把握して対応しているはずです。

薬物治療だけではなく、運動や日光浴や食事療法(GABAやトリプトファンなどの積極的摂取)といった生活習慣療法ももちろん重要です。

ただ、運動する気力も体力もないような場合にはやはり薬物治療や休息が必要です。薬物治療は、危機的状況を離脱したらいつでも漸減すれば良い(ただしあくまでも症例に応じて対応し、多くの場合には時間を掛けてゆっくりと慎重に行う)と割り切って、なおかつ、依存症になるなどという副作用リスクを必要以上に考えすぎずに行うことが大事だと思います。

ステロイドでも向精神薬でも、不要な状態になればちゃんと分かります。内分泌疾患へのホルモン補充療法しかり、高血圧治療薬もしかり、ちゃんと経過観察してモニターしていれば、無用に惰性で投薬することはありません。不要となれば漸減したり投薬終了することも可能です。

とにかく患者さんの状態を把握すること、関心をもってちゃんと観察していること、が、ベースとして必要なことは繰り返しになりますが強調しておきたいと思います。

投稿者: 三本木クリニック

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