昨夜は「かかりつけ医のための高血圧よろず相談所」と題する講演会に参加してきました。
演者はもはや愛知県を代表する高名な開業医である、戸崎先生(糖尿病専門)と平光先生(循環器専門)で、いずれもたいへん有意義な講演内容を提供していただきました。
戸崎先生からは、開業医が心がける生活習慣病の集約的治療、という題名の内容で、減塩の指導や疾患のミニ知識の提供などをいかにこまめに上手に診療の隙間時間に織り込むか、ということを、具体例を挙げながら説明していただきました。同じ開業医であってもここまで指導の細やかさに違いがあるかと圧倒されてしまいました。当院でもいろいろな資材を用いて情報提供して、もっと患者さんの病態改善のために役立てなければならない、と危機感をおぼえました。
ふたつめの講演の平光先生は、これまでに何度か同様の内容を聴講してきたのですが、流れるような語り口で毎回感動をおぼえます。ただ、こちらの頭が少しついて行けない面もあるほどに流れが早いので、何度聴いても意義深いし、その都度講義内容を思い出し直す、といった印象です。今回印象に残った内容は、心不全の生命予後は、腎機能により明確に分かれてくる、というものです。これは以前聴講した際にも明確な生命曲線でデータを見せて頂いたことがありますが、つまりどういうことかというと、心不全の治療には多くの場合、利尿剤が欠かせないわけですが、その利尿剤にも腎臓を守るタイプのものとそうでないものがあるので、腎臓を守る治療で心不全治療をしないと、良い予後が得られない、ということなのです。以前にブログでも紹介しましたが、心不全治療のいわゆるファンタスティック4、といわれる、4種類の系の治療薬があるのですが、まずはβブロッカー、そしてMRAといわれる系統のカリウム保持性利尿剤、そしてARNIといわれる、腎保護機能のある利尿剤、さらに最後がSGLT2阻害剤。SGLT2阻害剤は本来糖尿病の薬なのですが、現在では心不全と腎不全の治療薬としても確立しているので、米国ではこの4種類の治療薬をすべて用いなさい、とされています。なんと4つのうち3つが利尿剤です。しかもこれらは腎機能低下を抑える作用があるのです。つまり寿命を延ばす、ということです。
心不全のマーカーであるNTProBNPというのがあって、それはうっ血性心不全の状態を把握するのに有用な検査項目ですが、実はこれ、腎機能が悪いとそれだけでも上昇しうるということで、これがあまりにも高値となりすぎるともはや評価がしづらくなるほどだというのです。今回この話は初耳でした。このことからも心臓と腎臓が密接に関連していることが分かりますね。
心不全は外来診療で高血圧だとか糖尿とかで診ている患者さんのうち、それほど居ないなあ、というのが一般開業医の認識だろうと思うのですが、実際にはそれは氷山の一角であって、実際にはうっ血心不全傾向で、ちょっと歩いたり運動したりするとすぐに息切れするようなタイプの生活習慣病患者さんがこれに該当します。こういう場合に、腎機能保護作用のある利尿剤で降圧させてやることが、実はカルシウム拮抗剤(日本では一番人気の降圧剤)よりも寿命を延ばすんだ、ということを示唆されていました。
他にもいろいろなトリビアが紹介されていましたが、いずれにしてもまた今回も学んだことを生かして、今後の診療に反映させていこうと思いました。ことに、この4月からは生活習慣病の診療費が倍増し負担が増えておりますので、少しでもその病態から脱却できることをめざし、なおかつ費用に見合った情報や指導箋などを提供していきたいと思います。